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隣のハットさん!

ニッポンらぶなハット家のお騒がせ奮闘記 in Canada!!

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ライフ オブ ラリー 恐怖のドライブより

目的地に着かない恐怖

カナダに到着後の1週間はとにかくお役所関係や子供達の学校、保険や銀行関係の手続きに追われた。まだ足のない私たちは老後を悠々と過ごすお義父さんに頼るしかない。ところがラリーの家に引っ越した翌朝私たちが耳にしたのは、

「おはよう、今日はどこに行く?」と言うラリーの一声。ポールが、

「ラリー、仕事は?」

「先週から医者のお墨付きが出るまで仕事を休んでいるんだ。俺はどこも悪くないのに、会社がそう言って聞きやしない。」と苛立ちを隠せない様子だった。

「どこか体が悪いのか」と心配するもののそうではなさそうで、ラリーはただただ「会社の陰謀だ」とブツブツと会社への恨み辛みを述べていた。自ら進んでドライバーになってくれると言っているので、高齢のお義父さんを煩わしたくなかった私たちはラリーの親切心をありがたく受けることにし、彼が休職している状況をそれ以上深くは追求しなかった。

ラリーの車に乗るのは7年前に帰国した時以来で、太短い右手の人差指一本でハンドルを操る彼を今でも鮮明に覚えている。その当時は新車の黒のピックアップトラックを運転していて、高速で見かけた同タイプのトラックに乗る若者と張り合うように運転していた。ピックアップトラックは男の象徴とでも思っているようで、スピードを上げて颯爽と追い越していく若者を自分も負けじと抜き返し、抜きざまには「どうだ!」と勝ち誇った笑顔で相手を挑発する。

あれから7年、年を重ね少しは落ち着いただろうと思いきや彼の運転は相変わらずだった。子供たちを喜ばせようとやってくれているのはよくわかるのだか、運転席のドアを開けたまま車を急発進させドアをその勢いで閉めたり、駐車場から家の前の道に出る時はきまって必ずエンジンをふかしタイヤを鳴らしながら走り去ったり、運転している最中に窓から腕を出し、運転席のドアの外側を叩くのと同時に急ブレーキをかけ、何かにぶつかったふりをしたり…。最初のうちは喜んでいた子供たちだったが、何度も何度も繰り返すので、さすがにちょっとウンザリしていた。こんな子供じみたことをする69歳もなかなかいないだろうと別の意味で感心しながらも、ガソリン代を取るわけでもなく色んなところに連れて行ってくれるので邪険な扱いはできない。この後同じトリックを一体何十回見せられたことだろう。歳を取ると同じ話を何度もするようになるが、ラリーの場合同じ話をするだけでなく、同じ行動を何度も繰り返すのだが、あたかもそれが初めてかのように思っていて、毎回私たちに驚きのリアクションを求めてくるのである。

最初は周りの目新しい風景に気を取られていた私たちだったが、ラリーと何度か出かけていくうちにだんだん彼の運転に目が行くようになった。彼は相変わらず人差指一本で運転していて、ハンドルは握るものだと思っていない。そしてミラーは使っているようだが、実際自分の目で死角や後方を確認しない。また脇見運転もやたらと多いように見えた。実際何度かラリー自身も「はっ」とする状況があり、彼は運転中に数秒ほど寝ているんじゃないかと何度か声を掛けたくらいだ。

ラリーの運転中のお決まりの一つに、サイクリストを見つけると必ずスピードを落とし、サイクリストと並走し彼らが何キロで走っているかをチェックする。サイクリストにとっては迷惑極まりない!ラリー自身も昔はサイクリストだったので、「あいつは遅い」とか「あのこぎ方はダメだ」とかダメ出しも多かった。また何を思ったのか突然車を停め歩いている人に声を掛ける。後ろから車が来てもお構いなし。ポールが指摘しようが、後ろの車にクラクションを鳴らされようが歩道の見ず知らずの人に話し続けるラリー。ラリーは自分の運転が完璧だと思っているようで、人から指示、指摘されるのを極端に嫌がった。

こんなラリーの運転に不安を感じ始めていたが、何よりも目的地になかなかつかないことに私たちはだんだんと苛立ちを感じ始めた。ある時はバーガーショップ、ある時はお洒落なスーパーマーケット、またある時はヘルシー志向のスムージーショップ、またある時はアイスクリーム屋さん。この他、肉屋、コーヒーショップ、ベーカリー、レストランなどなど、目的地に到着する前に見事100%の確率で寄り道をするラリー。そしてそのほとんどが食べ物屋さん。130キロの体型に納得だ。ラリーは舌が肥えているようで、食べ物なら何でも良いわけではない。街の美味しいものを知り尽くしており、好みの物しか食さないこだわりもあった。

この他、公園やアニマルシェルターなど子供が喜びそうな場所にも連れて行ってはくれたが、とにかく目的地に着かない。そしてどこに連れて行かれるのか全く予測不能なのだ。私たちは1箇所に行きたいだけなのに、ラリーと出かけると1日潰れることは当たり前だった。